東北大学

2025(令和7)年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について(一般選抜(後期))

一般選抜(後期)

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法、 民法、 商法、 民事訴訟法、 刑法、 刑事訴訟法

一般選抜(後期)

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>

問題1

憲法23条の保障内容の理解を問うものである。憲法23条は、人権として、学問研究の自由、研究発表の自由、教授の自由を保障し、また、制度として、大学の自治を保障している。それぞれの内容について、特に、東大ポポロ事件(最大判昭和38年5月22日刑集17巻4号370頁)及び旭川学テ事件(最大判昭和51年5月21日刑集30巻5号615頁)に即して説明することが求められる。

 

問題2

立法不作為に対する違憲審査に関する理解を問うものである。在宅投票制度廃止事件(最判昭和60年11月21日民集39巻7号1512頁)は、国家賠償請求訴訟において立法不作為の違法性が認められる要件を極めて厳格に解し、立法不作為の合憲性を争う方法を実務上ほぼ閉ざしたと言われているが、在外邦人選挙権事件(最大判平成17年9月14日民集59巻7号2087頁)は、判例変更を行わなかったものの、実質的にその要件を緩め、立法不作為の国家賠償法上の違法性を認容し、立法不作為の合憲性を争う方法としての国家賠償請求訴訟の道を開いた。特にこの2つの判例の論理について説明することが求められる。

 

<民事法(民法)>

1 民法210条の定める公道に至るための他の土地の通行権(囲繞地通行権)と民法280条の定める地役権について、権利取得の要件(前者が法定のものであり要件が満たされれば当然に権利が成立するのに対して、後者は当事者の設定行為すなわち合意による)や権利の内容(前者は民法211条1項により必要かつ損害が最小となる方法によることが必要となり、条件次第では丙土地を通行するべきであり乙土地にかかる通行権が生じないこともあるのに対して、後者では設定行為によって内容が定めるためそうした制約がかからない)について、制度を比較しながら理解できているかを試す基本的な説明問題である。

2 消滅時効、そのなかでも催告による時効の完成猶予(民法150条1項)についての知識をもつことを前提に、連帯債務者の一方にこれが生じた場合でも他方にその効力が及ばないこと(民法441条の定める相対的効力)、これに基づいてCは、債権者Aに対する弁済を拒絶することができる一方、弁済を行なった連帯債務者の一人Bからの求償は妨げられないこと(民法445条)について、具体的事例に条文を提供して結論を導くことができているかを試す、やや発展的な事例問題である。

3 配偶者短期居住権について、条文に定められた要件を掲げて、問題文の事例に当てはめて結論にいたることができるかを試す基本的な事例問題である。

 

<民事法(商法)>

第1問

取締役会の招集通知には,議題の記載が要求されていない(会社法368条)。これがどのような趣旨の規定であるかを説明した上で,議題の記載のない招集に基づく取締役会であっても,その決議は有効となるのが原則である。もちろん,定款や社内規則によって,招集通知に議題を記載する旨が要求されている場合には,必ずしもこの限りではない。

 

第2問

AC間で締結された連帯保証契約は,金額からして,「多額の借財」(会社法362条4項2号)として取締役会決議が必要となる可能性が高い。その場合,本問では取締役会決議がなされていないから,必要的な取締役会決議を欠いた連帯保証契約の効力がどうなるかを考えなければならない。判例(最判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁は,取締役会決議なき代表取締役の行為は,原則として有効だが,相手方が同決議を経てないことを知りまたは知り得べかりしときに限って無効とする。

 

第3問

役員に対する退職慰労金も,報酬の後払い的性格を持つから,報酬同様に株主総会決議によって決めなければいけない(会社法361条)。そして,株主総会決議の取消判決は遡及効を持つから,取消判決が確定すれば,株主総会決議は遡って存在しなかったことになる。そうすると,役員に対する退職慰労金の支払いはできないことになるから,役員が保有する退職慰労金は不当利得となり,会社に対する返還義務を負うことになるのが原則である。

 

第4問

現物出資が行われた場合,金銭と違って,当該現物の評価は必ずしも明確ではない。そうすると,市場価格よりも高額な評価がなされた出資がなされた場合,当該現物を出資した出資者は,金銭を出資した出資者に比較して,出資した財産の価値に比べてより多くの株式を受け取ることになってしまい,出資者間の不平等が生じる。また,会社の財産的基盤も十分に確保されなくなってしまう危険性もある。これらの問題を回避するために,検査役による調査が要求されているのである。

 

第5問

単なる財産の譲渡と違い,事業譲渡については(一部の事業譲渡についてのみだが)株主総会特別決議による承認が必要とされているのは,事業は,単なる財産と違って,それを利用して事業が営まれ,継続的にキャッシュフローを生み出す基盤だからである。単なる財産を保有していても,それがすぐに利益を生むわけではないが,事業は,それを保有することによって利益が生み出され続ける。「株主の利害に重大な影響を及ぼすから」という解答では,なぜ事業譲渡が財産譲渡と違う取扱いを受けるのかの説明になっていないから,注意すること。

 

<民事法(民事訴訟法)>

第1問 否認と(再)抗弁の違いを明らかにしたうえで、具体的な訴訟上の主張についていずれに該当するかを説明できるかを問う問題である。

第2問 具体的な訴訟上の主張が裁判上の自白に該当するか否か、自白に該当するとしてその撤回にはいかなる条件があるかを説明できるかを問う問題である。

第3問 確定判決の既判力の客体的範囲及び基準時についての一般論を説明し、基準時前に行使可能であった形成権を基準時後に行使した場合の処理について説明できるかを問う問題である。

 

<刑事法(刑法)>

本問は、簡単な事案を素材にして、

①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、

②法的知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、

③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、

④殺人罪に関する正確な理解の有無(未必の故意の理解を含む)、

⑤不作為で作為犯に関与した場合を理論的に的確に処理する能力の有無(作為義務の有無を的確に判断する能力の有無を含む)、

⑥死体遺棄罪に関する正確な理解の有無(共同正犯に関する理解を含む)、

⑦罪数論に関する正確な理解の有無

等を確認することを目的としたものである。

 

刑事法刑事訴訟法)>

本問は、東京地決昭和47・4・4刑月4巻4号891頁を素材として作題したものであり、再逮捕・再勾留の適法性につき問うものである。

 

<小論文>

東北大学法科大学院は,法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としているところ,小論文試験は, 20世紀前半のドイツ文学を代表するW.ベンヤミンにたいするH.アーレントの評論を取り上げ,ナチズムによる思想弾圧の蛮行と,ユダヤ知識人相互の知的角逐という複雑な問題系に関して,受験者が,文章を的確に整理・分析してその要点をまとめ,それを文章へと構成する力を有するか否か,問うものである。

問一は,ベンヤミンの知識人としての個性と,それを的確に評価し得ないユダヤ人を中心とした知識社会との関係を問うものである。問二は,ベンヤミンが詩人・文芸評論家として如何に際立った存在であったか,これをアーレントがどのように見ているのか,問う問題である。問三は,ナチスによる精神的自由の抑圧と人種差別政策が,ベンヤミンを代表とするユダヤ人知識人にたいして,いかに深刻な打撃となったのか,問う問題である。

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