2022(令和4)年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

一般選抜(後期)

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
 本問は、参政権に関する基本的な知識と理解を問うものである。
 問題1では、選挙の基本原則の一つである平等選挙について、それは1人1票を原則とするだけのものなのか、という点も含めて説明することが求められている。
 問題2では、この訴訟で選挙無効訴訟が用いられたことも踏まえて、判例(最大判昭和51年4月14日民集30巻3号223頁)に即して説明することが求められている。
 問題3では、選挙権の行使の制限とはどのようなことかを踏まえた上で、判例(最大判平成17年9月14日民集59巻7号2087頁)に即して説明することが求められている。
 問題4では,被選挙権や立候補の自由について憲法上明文の規定は存しないことを踏まえた上で、判例(最大判昭和43年12月4日刑集22巻13号1425頁)に即して説明することが求められている。
 問題5では、国民審査制度の趣旨を踏まえた上で、判例(最大判昭和27年2月20日民集6巻2号122頁)に即して説明することが求められている。

<民事法(民法)>
 第1問 本問は、不動産の二重譲渡があり、第二譲受人が第一譲渡について悪意である場合における物権法レベルと債権法レベルでの第一譲受人の保護の要否を問う。物権法レベルでは民法177条にいう「第三者」の主観面について論じ、債権法レベルでは債務者に対する履行不能による損害賠償請求権や解除権の行使や、第二譲受人に対する不法行為による損害賠償請求権の行使の可否について論じることが求められる。
 第2問 本問は、種類債権の特定の要件と効果に関する基礎的知識を問う。要件として特に民法401条2項の解釈を(「物の給付に必要な行為」の完了については持参債務・取立債務・送付債務に分けて)論じ、効果として善管注意保存義務の発生(民400条)や原則的な所有権の移転等を具体的に指摘することが求められる。
 第3問 本問は、過失相殺と損益相殺に関する基礎的な知識を問う。共通点として民法505条以下の相殺と異なり、対立する債権につき対当額での債権の消滅をもたらすものではないこと、公平の見地からされる損害賠償額の減額方法であることを指摘し、相違点として根拠規定の有無と斟酌する対象を指摘することが求められる。

<民事法(商法)>
 第1問 残余財産分配などの場面において会社債権者の権利が充足されて初めて株主の取り分が発生することを理解できているかどうかを問う趣旨である。
 第2問 いわゆる閉鎖会社においては,株主間の人的関係が会社経営にとって重要であり,株主として望ましくない者が株主となることを防ぐ必要があることを理解できているかどうかを問う趣旨である。
 第3問 大規模な会社においては,取締役会が直接会社経営の監視監督を行うのは現実的ではなく,内部統制システムを構築することで不正行為などが発生した場合に,その情報が取締役会に伝わるような体制を構築しておくことが重要になることを理解できているかどうかを問う趣旨である。問題文は,「株式会社のうち,大会社および委員会型の会社においては」と書かれているので,それ以外の会社では取締役会決議事項とされていないのになぜ,これらの会社では取締役会決議事項とされているのかが問われている。問題文を正確に読んで欲しい。
 第4問 最判昭和62年4月16日裁民150号685頁(「取締役を辞任した者が,登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し,辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合」には429条責任を負う)を理解できているかどうかを問う趣旨である。
 第5問 不法行為債権者は,一般債権者と異なり,いわゆる非自発的債権者である(自発的債権者ではない)ことから,債務者会社に対するスクリーニング・モニタリングが期待できず,要保護性が高いことを理解できているかどうかを問う趣旨である。「不法行為債権者の保護が強いのはなぜか」という問いなので,「不法行為債権者は要保護性が高いから」という回答では同義反復でしかない。要保護性が高い理由が問われているのであり,問題文を正確に読んで欲しい。

<民事法(民事訴訟法)>
 問1 複数人が共同で関与する訴訟形態について問うもの。
 問2 本件訴訟における訴訟物を問うもの。問題文に「個数に注意して」とあるように、ここでは原告側の共同訴訟である点に留意して解答することが求められる。
 問3 原告側共同訴訟において、共同原告の一方による訴えの取下げの有効性を問うもの。問題文に「共同で原告となっていることに留意し」とあるように、ここでは、①Yによる訴えの取下げが所定の要件を充足するかという観点のほか、②共同訴訟人の一方のみによる訴訟行為であるという観点からの検討も求められる。

<刑事法(刑法)>
 本問は、簡単な事案を素材にして、
①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、
②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、
③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、
④共同正犯の個々の要件に関する正確な理解の有無、
⑤共犯関係(共謀)からの離脱に関する正確な理解の有無、
⑥住居侵入罪及び窃盗罪(実行の着手時期を含む)に関する正確な理解の有無、
⑦強盗予備罪に関する正確な理解の有無
等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
 本問は,最決平成19・2・8刑集61巻1号1頁を素材として作題したものである。

<小論文>
 東北大学法科大学院は、法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では、法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力、すなわち、資料を正確に理解し、整理・分析してその要点をまとめ、それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。なお、この試験は中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会「法科大学院法学未修者等選抜ガイドライン」(平成29年2月13日)において「小論文・筆記試験」に含まれるとされる内容を網羅するよう作成されている。
 本問は、近時着目されている「ナッジ」という政策手法とその理論的基礎である「リバタリアン・パターナリズム」について自己決定権の観点から検討を加えた論考を素材として、重要概念、論理構造、筆者の見解等を正確に把握した上で、設問に即して的確に説明することを求めたものである。素材の内容の理解はさることながら、それぞれの設問においていかなる点について説明が求められているのか正確に理解して必要な要素を的確に盛り込んで解答できているか否か(問への応答として的確であるか否か)を重視するとともに、指示された分量の範囲内で論理的な文章としてまとめられているか否かという点にも留意して評価を行った。

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