![]() |
||||||||||||
東北大学法科大学院メールマガジン第70号 01/31/2011 去る平成22年10月14日(木)に、片平キャンパスのエクステンション教育研究棟にて、「新司法試験合格者と語る会」が開催されました。本法科大学院を卒業し、本年度の新司法試験に合格した4名の方々にご講演頂き、また在学生との間で活発な質疑応答が行われました。 今回は、1人目として、赤石圭裕さんの合格体験談をご紹介いたします。 合格者体験談 赤石圭裕さん
<はじめに> まずは簡単な経歴から申し上げます。東北大学法学部を卒業後、ある企業に入社し4年働いて、退職後に東北大学法科大学院に未修者として入学しました。その後卒業し、1回目の試験は論文で不合格となりましたが、今年2回目で合格することができ、今に至ります。 法曹を目指したきっかけですが、学部時代は司法試験のことは全く考えず、勉強も本当にしていませんでした。しかし、社会人時代に、あるきっかけから、自分の言葉で困っている人を安心させられるような仕事がしたいと考えるようになり、そのためのツールとして法律がよいのではないかと考え、一念発起して法律家を目指すこととしました。そんなこともあって、社会人経験者の未修者が年々減ってきているという現状は少し悲しく思っています。
<ロースクール時代> 具体的には、授業の復習として、授業でやった分野について問われている過去問をその都度解くことが有益だと思います。これにより、どこが試験で聞かれやすいかがわかるので、復習にメリハリがつけられます。それに、年が明けてから初めて過去問を解こうとしても、とても手が回らず、結局ほとんどできなかったという人は多いので、早めに過去問を解いておくことはやはり有益です。 特に、東北大学の刑訴については、論証暗記が一番通用しない科目なので、早いうちに過去問に慣れ、出題者がどのような書き方を望んでいるのかを把握すべきでしょう。逆に、刑訴は他教科よりも要求される知識の絶対量は少ないと思うので、いわゆる純粋未修の方でも短期間である程度の成績を上げやすい科目です。ぜひ頑張ってください。 過去問を解く際は、一人ですべての過去問の答えを用意するような時間は無いという人がほとんどでしょうから、複数の友人とゼミを組んだうえで、解答の作成を分担することも有益かと思います。この点について、学生同士でゼミを組んでも効果が薄いのでやらないという方もいます。 しかし、東北大学には周りに優秀な人がたくさんいるはずでしょうから、これを利用しない手はないと思います。また、定期試験は情報を集めた者勝ちの部分もあるので、周りの人から有益な資料を集めたうえで、試験対策に生かせるというのも一つの力と言えるでしょう。個人プレーはあまりお勧めできないということです。 ゼミを組む際に注意する点としては、あまり深入りすべきでないということが挙げられます。おそらく大多数の学生の知識量は、大差ないと思われます。そうすると、それなりに優秀な学生が集まって有名な本を読んでもよく分からないような箇所は、みんながわからないような箇所といえます。 そういったところを深く議論しても、時間がかかるだけで実になるものは少ないおそれがあります。ですので、よほど特定の分野に詳しい学生がいるといった場合でない限り、話し合ってもよく分からないところは思い切って切り捨てるか、速やかに先生に質問することをお勧めします。 特に純粋未修の方は、今は相当キツいと感じている方が多いかと思います。しかし、今しっかりと基礎を固めておくと、L2の途中から伸びる人は大きく伸びます。そうでない方でも、新試に一発合格された方はたくさんいます。 また、L1生に限りませんが、どの問題でも良いので、良いとされる答案を早めに入手して、なぜ良いのかを何となくでもつかんだ上で、それを真似る姿勢を身につけてください。私の場合は、L1時代にL2やL3の優秀な方の刑事系の答案を見ることができ、それが自分の答案の型のルーツになり、最後まで役立ったという経緯があります。 手っ取り早いのは、市販されている上位合格者の答案集を見て、自分の肌に合った書き方を真似るということでしょうか(もちろん、答えを暗記することを勧めているのではありません)。先ほどお話しした定期試験の話と同じで、出口を早めに知ることが得策だと思います。 なお、未修者の方は、春休みの間に民法の財産法分野の復習を必ずして下さい。後期の間は他教科との関係で相対的に民法の勉強時間が減りますし、L2の前期になると民訴や刑事法が大変なので民法をやっている時間がほとんどないからです。民法は必要とされる知識の絶対量が他教科よりも多いので、ある程度の時間をかけないといけません。この点に目を背けていると、そのまま本番を迎えてしまうことになりかねないので、肝に銘じましょう。 受験生全体の合格率は下がっているとはいえ、東北大学の未修者は、全国の未修者と比べて高い合格率を誇っています。長丁場になるかと思いますが、じっくりやれば成果が出るとの希望をもって頑張ってください。
○L2(2年生)以降の学習について まずは、体を壊さない程度に頑張ってほしいということです。予習や課題をこなすために徹夜が続くようだと、途中で体を壊しかねないです。そうでなくとも、予習をほぼ徹夜でやった後に仮眠をとったら授業を寝過ごしてしまったとか、授業中に居眠りをしてしまったとかだと、本末転倒です。是非ほどほどのところで切り上げて、睡眠をある程度取るようにしましょう。 本試験では1科目2時間で答案を書きあげないといけませんし、実務の世界でも、締め切りがある以上、限られた時間で一定の仕事を完成させるというスキルが要求されているかと思います。要するに、司法試験の世界では、完璧主義者は危険だということです。ですので、ロー時代にできるだけ、割り切るところは割り切るという姿勢を身につけた上で、健康を保っていただければと思います。 次に、択一対策についてです。択一は通らないと、せっかく計17時間かけて書いた論文答案が読まれずにゴミ同様の扱いとなってしまいます。そして採点がされない結果、自分の書いた答案がどの程度の評価なのかが全く分からず、択一落ちの恐怖を感じながら来年以降の試験を迎えざるを得なくなります。 私はというと、L3になる前の春休みでタクティクスをほぼひと回しし、L3の夏休みで肢別本をほぼひと回ししましたが、9月の模試の時点では平均より少し上しか取れませんでした。そこで、年末にかけてもう一度肢別本を約一周させたところ、さすがに足切りはないという点が取れたことから、後は力を落とさない程度にしか択一はやらないこととし、論文に力を注げました。なお、浪人時は、現役時に間違った肢を解きなおす位しかやりませんでした。 ここで言いたいのは、L3生は年内に、択一の足切りはたぶんないというところまでやって欲しいということです。今のL3生で、足切りレベルを下回っているのに何の危機感も持っていない人は相当危険です。4月にある予備校の模試をやって初めて深刻さに気付き、4月に泣きそうになりながら択一本を夜通し解くということになりかねません。 現L2・L1の方は、そういった状況を他人事だと思わずに、早めに択一対策をすることをお勧めします。本を一周させただけではなかなか記憶は定着しませんが、二周三周するうちに、少しずつ身になっていきます。特に、配点が74/350点もある民法をじっくりやってください。 もっとも、択一は総合点の1/9しかないので、やりすぎてもコストパフォーマンスが悪いです。択一を30点伸ばしたとしても、択一の点数は総合評価の換算時に半分にされるので、15点しか増えません(平成22年度本試験では、満点1575点、合格点775点)。他方、論文は、1科目わずか2点伸ばしただけで、8科目で16点伸び、さらに総合評価の換算時に1.75倍されるので、計28点も増えます。ちなみに28点増えるというのは、今年の本試験でいうと2500番の人が2000番以内に入る(=合格)ということです。 ここで一つ先生方にお願いがあります。それは、必修試験の答案は原則学生に返却していただきたいということです。私の代は、刑事系科目とL2の民訴の答案以外はほぼ返却されませんでした。そのため、返却のなかった科目はどこがよくてどこが悪いのかが分からずじまいであり、ABCDの評価に一喜一憂して終わりでした。これでは学習効果が半減するので、是非原則返却をお願いします。
<一度目の本試験> そして、4日目の刑事は一番好きな科目だったのですが、「刑事こそはできなければいけない」というある種の強迫観念にかられたのと、妙に複雑な問題に混乱したが故に、刑法で3時間近くかけたのに答えを絞り切れずに書き直しを重ねたうえで一番中途半端な答案を書いてしまうという失態をやらかしてしまいました。 総合評価でいうと、確かに民事の点は悪かったのですが、刑事はさらにそれ以上に悪く、不合格となってしまいました。しかしながら、刑事が普段通りの点を取れていれば十分合格できるような程度でした。この経験から私は、少々わからない問題でも思い切りをもって答案を書くことの重要性を痛感しました。もっとも、悪いと思った教科が本当に悪かったという経験から、逆に普段の感触通りに書ければ来年は何とか合格できるだろうと思えたことは、ある意味収穫でした。
<浪人時代> このような自習室を作るかはともかくとして、浪人生にとって環境面はとても大事です。特に、実家に帰ったため勉強会の相手がいない、試験に関する情報が入ってこないといった環境の悪化は、浪人生の合格率が新卒よりも低い原因の一つだと思います。もっとも、最近はスカイプを使って遠距離の人と勉強会をすることはできますし、スキャナで答案を読み込んでメールで送ることで、詳しい人に添削をしてもらうこともできることからすれば、一昔前よりも環境を整えやすいのではないでしょうか。浪人生は、この辺にはもっと貪欲になっても良いと思います。
○勉強方針について 具体的にいうと、例えば答練の点数が50点の人が複数いても、克服すべき点はひとそれぞれだと思います。知識はあるのに思考過程を飛ばす人とか、日本語がおかしく誤字脱字が多い人とか、時間配分が下手で途中答案が多い人とか、おっちょこちょいで問題文の読み違い読み飛ばしが多い人とか、本当に人それぞれだと思います。なのに、一律に予備校の作った参考答案と比べて、点数に一喜一憂して終わるというのはおかしいです。 ですから、萩法会や予備校を利用する方は、是非自分の答案を精査する機会を設けるようにしてください。その際、合格者に答案を読んでもらったり勉強会を組むなどして、悪いところを指摘してもらい、そこを修正するという姿勢であれば、答練の効果が何倍にもなるでしょう。
○具体的な勉強内容について ちなみに私はというと、民事系を少し苦手にしていたので、秋の間は答案練習と並行して教科書をじっくり読むという作業をしていました。そうしたら、年明けには答練の点数が飛躍的に伸びました。 答案練習については、書いた答案を見直す際に、必ず条文の解釈の姿勢を見せることができているかについて気を付けるようにしていました。具体的な勉強方法は人それぞれだとしても、条文解釈の姿勢は絶対だと思います。ここを離れて覚えた論証を並べるクセのある人は、特に注意するようにしてください。 また、自分の答案として書ける量を早いうちに把握してください。数をこなせば、自分が何分で一枚の答案が書けるかが大体わかります。そうすれば本番でも、残り時間に合わせて書く量を柔軟に調整できるようになります。 次に、私は友人とゼミを組んで答案の検討会をしていたのですが、その際気を付けたことは、みんなが書けるところをきちんと書けていたかという点です。新司法試験は相対評価に近い部分があるので、みんなが書きそうな部分をきちんと書けていれば、受かる試験です。逆に、出題趣旨やヒアリングで触れられているところでも、みんなが書けていないようなところであれば、自分が書けないとしても致命傷になることはありません。 もっとも、広く浅く書くことを勧めているのではありません。みんなが書けそうなところを書いたうえで、どこかで深い考察ができていたのであれば、点は大きく伸びますし、たとえある科目で大失敗をしたとしても他で十分カバーできるということです。
○本試験 それでも、大きなミスはやはりありました。2日目の民事系の問題でのミスだったのですが、3日目の試験の日の午前3時ころにそのミスに気づき目が覚めてしまい、そこから眠れず、そのまま試験に突入してしまいました。それでも、試験中はそのことを忘れて、今やれることをやるということに徹することにしました。 そういうこともあってか、今年は大崩れすることはなく、何とか合格できました。ちなみに、失敗した民事系も、何とか他の設問でカバーできていたようで、想定していたような酷いことにはなっていませんでした。本試験では普段では考えられない失敗をしてしまうこともありますが、最後まで諦めずに気持ちを切り替えた上で、受けきって頂きたいです。 最近周りの人の成績を聞いて思ったことを述べます。東北大学院生は常々民事系が弱いといわれていますが、実は憲法も弱いと思います。今年も合格者ですら公法は散々だったという人がかなり多くてびっくりしました。 原因の一つとしては、L2前期で憲法を学習して以来、あまり勉強をしなかった故に、本試験の設問形式を十分研究しないまま本試験に臨んでしまったことが挙げられるような気がします。憲法は他の科目以上に答案の型を作ることが有益かと思われますので、来年受験される方で憲法に自身のない方は、是非危機感を持って問題演習に取り組んで頂きたいと思います。
<最後に>
◆編集後記 平成23年(2011年)初のメールマガジンとなりました。今後も、積極的な情報発信、内容の充実を心がけていきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。
本号より、新司法試験の合格者の体験談を逐次ご紹介したいと思います。 今回のご講演の中でご指摘頂いた試験の答案の返却について、本学内で早速検討し、本年度の後期試験からすべての科目について、答案の返却を希望する学生全員に、採点前の答案のコピーを返却することになりました。 (杉江記)
メールマガジンの配信停止をご希望の方は、 発行:東北大学法科大学院広報委員会 |
||||||||||||
![]() |
![]() |