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東北大学法科大学院メールマガジン第62号 06/30/2010 ◇東北大学法科大学院東京オープンキャンパス開催のお知らせ(再々掲) 東北大学法科大学院では、下記のとおり、東京にてオープン・キャンパスを開催します。
日時:2010年7月3日(土) 10:30〜13:00
会場:東北大学東京分室 プログラム:
お問い合わせ 事前の参加申込みがなくても参加可能ですが、会場の都合上、来場者多数の場合は、入場を制限またはお断りさせていただくことがございますので、ご了承ください。 ※8/28(土)に東北大学片平キャンパスにて、東北大学法科大学院オープンキャンパスを開催いたします。7月に竣工されるエクステンション教育研究棟の新たな施設をご覧いただく最初の機会です。こちらへのご参加も心より歓迎いたします。詳細は近日中にホーム・ページおよびメールマガジンにてお知らせいたします。 ◇連続講演会のお知らせ 東北大学法科大学院では、これから夏にかけて、本法科大学院の修了生・在学生・教職員を対象に連続講演会を企画しています。
第1回は、去る6月24日(木)に、本法科大学院の修了生である押見和彦弁護士、佐瀬充洋さんをお迎えして、法科大学院での学び方についてお話いただきました。たくさんの方のご来場ありがとうございました。
第2回 7月8日(木) 18:00〜19:30
第3回 7月14日(水) 18:00〜19:30 ※連続講演会の第4回については、追ってご案内致します。 ◇2011年度 東北大学法科大学院入試説明会行われる 去る6月26日(土)に東北大学片平キャンパス法学研究科第4講義室にて、入試説明会が開催されました。 当日は、学内外から約50名の来場者を迎え、法科大学院長の佐藤隆之教授による東北大学法科大学院の概要についての説明、蘆立順美准教授による平成23年度法科大学院入学試験についての説明などが行われました。 ご来場いただいた皆様に、心から御礼申し上げます。 今回は、去る2009年12月9日(水)に、牧原秀樹弁護士をお迎えして行われた講演会「これからの法曹人のあり方 ―今までの固定的なあり方から、多様な場で活躍する時代へ―」の概要をお送りします。 牧原先生には、これまでの様々なご経験を中心に多様な弁護士の仕事についてご紹介いただき、非常に内容の濃い面白いお話をしていただきました。 これからの法曹人のあり方 ―今までの固定的なあり方から、多様な場で活躍する時代へ― 牧原 秀樹 弁護士
<はじめに> 坂田院長の方からご紹介がありましたが、私は94年に司法試験に合格して、95年に大学の卒業と同時に司法修習所に入りました。当時は2年間修習があり、そのうち実務修習の1年4ヵ月をこの仙台で過ごしました。佐藤裕一先生が弁護指導担当、石井先生が民事裁判の指導担当、藤田先生は娯楽指導担当でした。仙台は、私にとって第2の故郷と思っており大好きなところでして、今日久しぶりに戻ってきてこうしてお話をさせて頂くことは大変光栄に思います。 今日のお話ですが、政治の話はしません。今日のお話は2つ、1つは法律家というものの固定観念を壊したい、皆さんの可能性が無限にあるということです。もう1つは、皆さんはまだロースクール生として勉強に励まれていますが、その未来に、皆さんの気付いていない扉や可能性、夢や希望というものがあれば、そういうものが開かれるようなお手伝いをしたいと思っています。 皆さんの中には、弁護士、裁判官、検察官の進路を決めている人もいると思いますが、私が仙台で修習していた当時は、進路を決める時期が今のように早くはなかったです。今は、司法試験に受かると同時に就職活動に行く方も相当多いと聞いています。私の頃は、まだまだ実務修習の終わりぐらいまで、何となく時間があるような感じでした。 私も弁護士になりたいと思って司法試験を受けたのですが、弁護士修習が佐藤先生の下で終り、検察修習が終わり、刑事裁判修習が終わった時点で、あさひ法律事務所というところに就職を決めました。その後、石井先生の下で民事裁判修習をしたのですが、私は石井先生に非常に惚れて裁判官になりたいと思いを変え、実は一度あさひ法律事務所に就職を断りに行ったことがありました。そうしたところ、その当時も不況で法律事務所もすごく採用を絞っていて、私の同期も2人しか採用されていない状態でした。その1人がいなくなるのは大変困ることで、一晩中話をしたところ、最後には「君の人生だから君が一番いいように選びなさい」と言って頂いたので、むしろこれはご迷惑をかけてはいけないと思い、あさひ法律事務所に就職することに決めました。 ですから、裁判官、検察官、弁護士という3つの選択の中ですぐに心を決めることなく、最後の最後まで悩んだ方がいいと思いますし、なるべく多くの方々のお話を伺った方がいいと思います。皆さんの人生は一回しかないですから、何を選択するかというのはすごく大きいことです。最後の最後まで悩んだ方がいいと思います。
<弁護士について> 例えば、英語で言うと、「attorney at law」これは法律の代理人ということですね。それからイギリスの「barrister」とか「solicitor」とか、それから弁護士全体の「the bar」という言葉とか、いろんな英語があります。これを日本の法律の状況に合わせて考えると、実体が違うので、言葉として合わないのです。 今までは弁護士というと、法廷に立って訴訟をやる、あるいはそれに関連する仕事というのがほとんどでして、そして今も同じです。私はそういう仕事も好きですし、皆さんの中でも弁護士になりたいと思っている方は、そういう風になりたいと思っていると思いますが、弁護士の可能性はものすごく広がっており、無限大です。 では、何故私がこのようなことを敢えて言うかですが、これから法廷に立って訴訟のみをやって生きていくことが大変になるからです。2009年11月1日現在で、弁護士名簿に登録されている弁護士が約27,000名います。先程、佐藤先生にお伺いしたところ、仙台弁護士会だけでも約300人登録されているとのことです。私が修習をしたのは96年ですが、その時は仙台弁護士会で約200人でした。ですから、わずか10年ぐらいで100人も増えているので、おそらく競争が厳しくなっていると思います。 東京ですと、もっともっと厳しいです。今年の修習生の場合、かなりの人が就職できず、半数くらい就職難民になってしまうのではないかという噂も聞いています。その前から、せっかく卒業して司法試験に受かっても、なかなか就職が決まらないという方が非常に多い状況になっています。私が合格した当時2万人であった弁護士が、7000人以上増えているわけですが、その7000人の方々がすごく大変な思いをされているのです。ですから、弁護士であってバッジをつければ、仕事がどんどん来て左団扇だという時代ではありません。ですから、やはり皆さんの時代は、弁護士になったとしても、それが目標点になってはいけないと思います。 弁護士になるということは、その先にこういうことをやりたいという夢や希望を持たなければいけない。是非ともそこに力を注いでもらいたいと思います。それがまさに、ロースクールの意味だと思います。ロースクールを司法試験に受かるため予備校のような所と考えたら意味がありません。検察官、裁判官も含めて法律家になった時に、今まで我々の時代とは違う人生目標、広がり、法律家としての幅をロースクール在学中に身につけるという気持ちに是非なってもらいたいと思います。その夢や希望とは何かですが、それは弁護士としてあるいは法律家としての活躍の場が広がっているということです。ですから、訴訟をやるのもいいし、それ以外のことをやるのもいいということです。
<大事務所の弁護士について> 今、皆さんの中には渉外弁護士を考えている方もいるかもしれません。私がいたあさひ法律事務所は、その後西村という法律事務所と合併し、西村あさひ法律事務所になって、現在弁護士数450人の事務所になっています。そうなると、事務所の中が完全に会社です。お互いの名前もみんな知らないし、誰がどこに座っているかということもわからない。本当に1つの会社になりました。今日の新聞・ニュースで、今度中国にオフィスを構えるという記事が出ていました。いよいよ日本の渉外事務所が、次は中国だと睨みはじめている。こういう動きになっています。 最初に私が皆さんの可能性ということで紹介するのは、この渉外弁護士、大事務所の弁護士についてです。大事務所の弁護士には、メリットがいくつかあります。1つは給料がいいです。私は今の相場は知りませんが、当時は弁護士1年目でも約1,000万円くらいでした。そして、もう1つは大きな仕事が多いということです。私が、留学前に最後にやった案件がダイムラークライスラーと三菱自動車の買収でした。ダイムラークライスラーが三菱を買収するというので、毎日三菱自動車の本社に行って、三菱自動車の会社の状況等をチェックする等の仕事でしたが、これは数千億円の仕事でした。それから、山一證券という証券会社の関連会社、証券のシステム等を管理している会社を本体から切り離して新しい会社として蘇らせる、上場させるという仕事をしました。金額的には何千億円という仕事をやることになります。 もちろん弁護士個人として、当番弁護士、個人の事件もできます。例えば、埼玉県の川口にあった金型の製造会社の破産事件を担当したり、当時東京ディズニーランドにはゴーカートのようなものがあったのですが、それに乗っていたところ後ろからぶつけられた方からの依頼で損害賠償請求をするという事件もありました。小さな変わった事件から大きな事件まで仕事の幅が広いということはあります。 他方、デメリットもやはりあります。デメリットの1つは他の人生がなくなるということです。大手の渉外事務所の場合、例えば、私ですと1時間3万円とか4万円という価格がつけられることになります。これは自分で決めるのではなく、勝手につけられてしまいます。それで、例えば、電話がかかってくるとすると、タイムシートというものがあって、そこに対応した時間を書き込みます。売れていない弁護士になると、なるべく長く話そうとする人もいます。会議の場合でも同じです。会議が2時間だった場合、私に3万円の値段がついていたら6万円のチャージがつくわけです。結局、このやり方だと自分の時間を使ってなんぼという世界なので、ひたすら働くことになります。ある大手の事務所の場合、廊下で会っても挨拶を交わさない、挨拶している時間があったら0.1でも案件にチャージしていた方がいいと、非常に殺伐としているという話も聞いたことがあります。 ですから、どちらかというと人間関係が濃いところがいい、週末に自分はテニスがしたい、週末に旅行に行きたい、平日の夜にはジムに行きたい、あるいは自分は第3言語を学びたいといった個人的な趣味に対して旺盛な意欲を持っている人はあまり向いていないと思います。
<一般の法律事務所について> 他方で、売れているときはすごくて、最近の弁護士ランキングは覚えていませんが、私が留学する前のランキングでは、升永弁護士という有名な特許関係の仕事をしている弁護士の方がランキング1位でした。今は大きい事務所に所属されていますが、当時はほぼ個人の事務所でやっていました。升永弁護士がランキング1位になった理由ですが、液晶テレビにも付けられているLEDに関する特許事件で、現在カリフォルニア大学サンタバーバラ校の教授になった中村修二さんという方と、中村修二さんが所属していた日亜化学工業という会社が、LEDの特許権を巡って大論争をくり広げていました。升永弁護士は中村修二さんの代理人だったのですが、この事件が終わったときにドーンと収入が入ってきたからです。そういった大きい案件が取れれば非常にやりがいがあると思います。 それから、もう1つメリットとしては、本来の弁護士としてのボランティア的な仕事も結構出来るということです。佐藤裕一先生が昔やっていた選挙管理委員会の委員等の社会活動とか、弁護士会のいろいろな委員会活動、全くお金にはなりませんが東京の弁護士会に行って、より政策的な議論、消費者を守る、民法を変える等といった議論を思う存分できるということがあると思います。したがって、先程の渉外弁護士と裏返しになりますが、自分は弁護士として仕事だけではなく、社会活動や弁護士会の活動、国会へのロビイング、そういったものもやってみたいという人は渉外弁護士には向いていないし、逆に普通の訴訟弁護士が向いていると思います。
<企業内弁護士について> このインハウス・ロイヤーにもメリットとデメリットがあります。まず、メリットですが、1つは給料がいいということです。私が知っている限りでは、好調だったときのゴールドマンサックスという証券会社のインハウス・ロイヤーになった人は年5千万円くらいの給料をもらっていたようです。それから社員ですから、有給をもらったり、休みがあったりそういう権利を主張できます。これは、もし自分が事務所のオーナーだったら絶対そんなことは言えないですし、渉外弁護士でも休みに休みたいと言ったらやめろと言われてしまいます。そういう意味では、企業の中に入って普通の社員と同じように働いて、しかも弁護士としての格があるから少し給料も多いというメリットがあります。 デメリットとしては、1つは、やはり弁護士になる人は良くも悪くも自由人が多いです。例えば、今週は弁護士会の大会があるから行く、週末はテニスをするとか、そういう活動の自由さはやはり弁護士のいい所だと思います。ところが企業内に入ってしまうと、それが言えなくなります。また、自分の法律家としての意見と会社の方針とが対立する場合には、会社の方針に沿った法律的意見書を書けと強制されてしまいます。これは、弁護士あるいは法律家としての魂に大変反する話だと個人的には思えますが、私が企業内に入れないと思っているのは、そういう理由です。歯車の1つになってしまうということです。 それと、もう1つのデメリットは真っ先にクビになりやすいということです。私の友人でも、ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーに入った友人が何人もいましたが、この数年で全員クビになりました。ですから、家を20年ローンで買うとか、そういう人は全く向いていないです。外資の大手のところは、好調な時には高い給料を支払われるけれども、悪くなると高い給料の人から真っ先にクビを切りますから非常にそういう意味では不安定です。
<外国の法律事務所について> 最近は日本に進出している外資系の事務所がたくさんあります。世界中で5千人くらいの弁護士がいる事務所もありますから、そういう事務所の日本の支店で働くという人もいます。もう1つのメリットとして、例えば、ニューヨークにあるその事務所の本店に行ったり、上海にある大手事務所に行ったりとか、世界的なチェーンがあるのでそういった可能性を探りたいということで入る人も結構います。これは、外国が好きだとか、自分は世界を股にかけて仕事がしたいという人にとっては大きなメリットだと思います。 デメリットというのは、大和魂を持っている人はダメだと思います。結局、日本にある外国の事務所というのはあくまで支店です。本店は、必ず外国に、アメリカの大都市あるいはロンドン、パリにあります。結局、支店は支店にすぎないので、本店から回ってきた仕事、例えば、先程お話したダイムラークライスラー社が三菱自動車を買収しようというときで、ダイムラークライスラー社が大手の顧問事務所を持っていた場合、日本でやるからというときには本店から弁護士が送られてくることが結構あります。そして、支店はあくまで支店なので、本店の人の指示に従って仕事をせざるを得ないということになります。 外資系の事務所にいった人たちのフラストレーションは、ほぼそのようなものです。私は大和魂を持っていて私は日本の弁護士である、私はあなた達よりよほど難しい試験やロースクールをくぐり抜けて来たといくら思っても、一旦その組織に入ったら支店の社員ですから権限が決して広くないですし、その外資の親元が不合理であったりすると非常にやりにくい状況になってしまうと思います。
<官公庁での仕事について> 私は、留学から帰ってくる前に、専門が通商法(WTO法)だったので経済産業省の人たちと事前に話をしていて、そして私の前任者が非常に仲のいい人だったこともあって、その人の後任になるという話が決まり、任期付き採用として経済産業省に行くことになりました。このポジションは現在役所の中でどんどん増えています。 任期付き採用の方は、金融庁が一番多いです。それから経済産業省内でも、通商法関連だけではなく、会社法関連、民事再生法や会社更生法を扱っている部署があります。例えば商品市場における先物取引に関連する法律を3年前に改正しましたが、そのような法律を変える時期にその分野の専門家に来てもらって法律を作るということも結構あります。それから、法務省の民事局というところで民法系の法律が作られていますが、ここにも必ず弁護士が複数人います。彼らが実質的に日本の法律を作っているといっても過言ではありません。 したがって、自分は歴史に残るような法律を作ってみたい、あるいは専門分野を深めたいと思う人にとっては非常にいい制度だと思います。一般の弁護士事務所にいると、私は環境法をやりたいと思っても、実際には環境法の仕事なんてほとんど無く、他のいろいろな仕事が入ってきてしまいます。しかし、官公庁に入っている時には、環境法をやりたいと思って環境省とかに入ると、それしかやらなくていいですから、専門をものすごく深めることができます。 私はこの制度で2年間やりましたが、こういうことに興味がある人には是非お勧めです。私は、相談を受けた後輩5人くらいに勧めてやってもらいました。何故非常にいい制度かというと、1つは今申し上げたように集中できるということです。資料も非常に豊富です。例えば、私は通商法関連の仕事、アメリカやヨーロッパと通商交渉をやっていましたが、その時に、そのWTOで行われている紛争解決手続という裁判手続のような制度があり、最終的に判決のようなものも出ますが、そういった関係の資料はどんどん入りますし、しかも過去のものも全部取ってあります。ですから、非常に専門志向の強い人にとってはやめられない仕事だなと思いました。 それから、メリットとして安定しているということがあります。弁護士事務所で働いていると売上に左右されます。今月は売り上げが少なかったとか、それから最もストレスを感じるのは案件を一生懸命処理したのにお金を支払わないという人もいます。しかし、官公庁の任期付き採用の場合、給料は国が払ってくれますから、そのようなストレスはありません。給料が増えることもありませんし、弁護士のときのように大きい案件をやって大きな収入を得るということはありませんが、ずっと安定しています。 それから、もう1つのメリットとして、国を背負うというになりますので、非常に活動範囲が広くなります。例えば、皆さんが何かにすごく興味を持って外国の政府のところに行って「私は○○大学の研究生です」と言うのと、「私は日本国政府の○○省の○○官です」と言うのでは、向こうの対応が全く違います。 例えば、私の経験ですが、通商紛争で、アメリカがアンチダンピングをし、このアメリカの行為は違法だということでWTOに提訴したことがありました。このWTOへの提訴をEUも同じようにやっていたので、EUとタッグを組んでやっていくことになりました。しかし、EUと日本では、同じアメリカと闘う同じ案件のはずなのに訴状が違ったのです。内容も違うし、法律構成も違う。私は、私が作成した日本の主張の方が絶対正しいという確信があったので、EU本部に直接電話をして、上司の了解を得て、ブラッセルにあるEUの本部に乗り込んで行きました。向こうはEUの弁護士20人くらい出てきましたが、こちらは私と私の部下1人です。しかも、当時私は32〜33歳の若造でした。しかし、私はEUの考え方は間違っている、○年度のWTOの○○判決に載っているなど主張して、EU側を説得し、最終的にそのWTOの紛争で勝ちました。そういった国対国の仕事は普通ではなかなか経験できない仕事です。 デメリットですが、弁護士というのは、藤田先生も佐藤先生もそうですが、人との縁ができる仕事です。例えば、「先生でないとダメなのです」という方が段々広がっていって、そして、その人たちの人生を共に分かち合い、悲しみも苦しみも分かち合い、そしてその人たちの為になる、誰かの為になるという仕事です。私もそういうところに非常にやり甲斐を感じます。ところが、任期付き採用となると、その縁が切れてしまいます。突然、「すいません。役所に行くことになったので、貴方の案件はできません。」とは言えない状況になってしまいます。逆に2年も役所に行っていたら、そういう人たちとの縁が切れてしまう可能性があり、その後も弁護士を続けていくことを思うとデメリットになります。 それから、これは、私が政治家になろうと思った大きな理由の1つですが、官公庁は縦割りです。石井先生ともお話しましたが、日本の問題は縦割りです。どういうことかと言うと、例えば、霞が関の交差点の角には、経済産業省、財務省、外務省、農林水産省があります。更に、経済産業省の中には、下の方の階に、原課と呼ばれる部署があります。これは役所言葉ですが、ある特定の業界を所管している部署です。これは各省にあります。例えば、経済産業には、鉄鋼課、自動車課という課があります。経済産業省の上の方の階には、今度は政策や国で分けられた課があります。例えば、北米課、東アジア課、それから通商機構部というようになっています。これは、他の各省でも同じように分かれています。 例えば、私が担当した案件の1つに、アメリカが日本から輸入される鉄を「これは安すぎる」と輸入を止めた事件がありました。このアメリカの行為はWTO違反ということで、ジュネーブに本部があるWTOに提訴したわけです。私の担当は、アメリカのとった措置はWTO違反であるから、準備書面や訴状を作成してWTOに提訴することでした。ところが、これはアメリカの案件ですから、北米課の人たちが自分たちの了解がないと前には進めないと言います。また、これは鉄に関する案件ですから、鉄鋼課の人たちが、自分たちの了解も必要だと言うのです。さらに、これはアメリカとの関係ですから、外務省の人たちもいろいろ口を出してきます。これらの人たちが全部了解しないと前に進まないのです。 この案件については、結局提訴がなされ、アメリカはWTO違反であると判断されました。ところがアメリカはWTOの判断を守りませんでした。WTO上、守らない場合は対抗措置を打つことができます。この案件で私たちはアメリカに対して対抗措置をとろうと考えました。アメリカから輸入されてきたものに対して税金を重く課して、アメリカから輸入しにくいようにしてしまう、そうすると、アメリカの産業の人たちの中には「鉄鋼業界のせいで自分たちのものが売れなくなった」とアメリカ政府に不満をいう人も出て来ますから、アメリカは自分たちの行為を撤回する、こういうメカニズムです。 私はこの対抗措置として、アメリカからの農産物を考えました。アメリカからの輸入で重要なもののほとんどは農産物だからです。しかし、対抗措置の対象として農産部を入れるとなると農林水産省と調整することが必要になりますが、最初は「冗談じゃない」と言われました。さらに、今回の措置は関税を引き上げる措置ですから税関を所管している財務省とも調整する必要がありますが、これもうまくいかない。また、外務省とも調整が必要となりますが、外務省も、当時牛肉のBSEの問題で牛肉の輸入禁止をしていたため、これ以上アメリカとの紛争はやりたくないと言います。 結局、この問題について、私は3か月間説得に説得を重ねてやっと対抗措置を発動してもらいました。それから私は選挙に出たのですが、選挙に出た2ヵ月後にアメリカは鉄鋼の輸入止を撤回してくれることになりました。官公庁のデメリットとフラストレーションは、縦割りで雁字搦めになってしまうということです。 皆さんが法律家になろうという場合に、興味の範囲は広いと思います。例えば、破産法をやろうと思ったときには、会社更生法や民事再生法、それから最近のADRといった制度とのバランスも考えたくなると思います。弁護士にとっても当たり前のことで、例えば、破産法の弁護士の場合、「破産法以外は何もわかりません」と言うと使えない弁護士となります。やはり弁護士であれば、案件が持ち込まれてくれば、これは私的整理にするか、破産にするか、民事再生にするか、それともADRを使うか、特別調停を使うか等その選択肢の中でメリットとデメリットをみて判断するわけです。しかし、役所に入ると、「破産法をしなさい」といわれた人が「すみません、これは会社更生法も変えた方がいいと思います」と言うと、「破産法は法務省が所管しているが、会社更生は経産省が所管しているので、それはこちらの法律です。」と言われますので、これはフラストレーションになります。
<国際機関での仕事について> この仕事のメリットとしては、日本人でこの仕事をしている人がほとんどいないということです。例えば、日本の現在の財政状況からみてIMFに入る可能性もあるわけですがそうなったときに、「私はIMFにいた弁護士です」と言うと引っ張りだこです。毎日テレビに出ることになる。非常に希少価値をもたれますし、外国人にも貴方はその専門分野ですねと一発でわかってもらえます。例えば、WHOに所属していた尾身茂さんという人がいて、この人は元官僚の人ですが、WHOにいたというだけで厚生労働関係の仕事がいっぱい来ます。私の専門の通商法は全く民間にはない仕事なので、「WTOにいた」と言っても誰にも響かないですが、それが響く分野であれば国際機関というのは面白いです。それから国際機関にいると、なんか自分はすごく広い世界にいるような気持ちになれます。例えば、自分が担当した会議は世界中でニュースになりますから、そういうような誇りがあるということです。 デメリットですが、日本人は、良くも悪くも人間関係が優しい国です。たとえば、誰かが「これできない」と言うと、先生が来て「大丈夫?では、ここを教えてあげよう。」という気風です。しかし、外国では、「できない?知らないよ。」という感じです。しかし、先生に「できないです。教えて下さい。」というとやっと教えてくれるというところです。 例えば、国際機関に行くと、昔の日本人は最初の就任挨拶で「私はこの分野についてはあまり熟知していませんけれども、これから一生懸命勉強して頑張っていきますので宜しくお願いします。」と挨拶したりします。日本では「あの人は謙虚だ。」と思われますが、外国ですと「あいつは馬鹿か。」ということになります。特に、外務省や文部科学省等から国際機関に行く人は、国際機関の中でもディレクターといった地位の高いポストに行くことが多いです。ところが、その国際機関で一番の下から入った人は出世に出世を重ねないと、ディレクターにはなれません。その分野の超エキスパートの人たちがみんな部下であり、上司は部下よりも優秀でなければならないという考えがあります。 日本では、上司に説明をしたときに上司がわからなかったら、部下が悪いということになってしまいます。ところが、国際機関や外国企業では、そのレベルの人たちならば誰でもわかるであろうということをわからない上司というのは無能という扱いです。すぐ外されてしまう。ですから、「私は有能で、何でも知っていて、何でもできます。」という人でないといけないということになります。
<国際援助の仕事について> 私の知っているだけでも何人も行っていますが、皆が一様に「ものすごくやりがいがあった。」と言います。やはり、ある途上国に行って言葉やいろいろなハンディを乗り越えて、国によっては法律の観念がなかったりするので、そういったことを教えていって、その国の初めての法律を作っていく。おそらく、明治時代のフランス人のボアソナールの気持ちだったと思います。ちなみに給料も結構いいです。年収はだいたい1500万くらいでしょうか。確かJICAや外務省に登録制度があると思いますので、登録しておくとこういうような援助をやりませんか、と紹介があったりします。 ただし、一点気を付けて頂きたいのは、そういった途上国に行く能力がない人がいくと、国の恥になります。例えば、民法のことを教えにいったのに、「日本の民法はどうだ」と質問されても何もわからないということでは、やはり行く価値はないです。個人的主義ではなく、国を背負っているという気概と実力がある程度必要です。
<政治家秘書の仕事について> デメリットは、遣えていた代議士が落選すると失業してしまうということで、常に失業の危険を孕んでいることです。それから、良くも悪くも政策秘書をやっていると、他のいろんな仕事があります。例えば、選挙とか、政治資金を集めるとか、中にはやりたくないと思う仕事もあるかもしれません。それから、嫌な代議士ですと本当に嫌になります。私が知っている代議士でも、頻繁に秘書が変わっている人もいます。
<政治家の仕事について> ただ、この弁護士資格を持っている国会議員のかなりの割合は、国会議員を何年かやると司法修習をしなくても資格がとれるという制度ができたので、それで弁護士になったという人です。おそらく、国会議員を長くやっていたから資格をとったという人が1/3くらいでしょうか。それから、何人かは、内閣法制局に5年いたということで弁護士資格を持っている人もいます。それから、弁護士資格を持っているが、弁護士としてほとんど活動したことがないという人もいます。 私は、国会議員を自分でやってみて思うのは、もっともっと弁護士の人は政治家になってほしいということです。それは、地方議員であってもいい。弁護士というのは、法律のプロです。ロースクールを卒業して司法試験を通ったらその瞬間に法律のプロになります。確かに、弁護士1〜2年目というのは、ベテランの弁護士からみたら、赤ちゃんにみえるかもしれませんが、でも世間の人はそうはみないです。中には、あの人は左だとか右だとか言う人がいますが、それは内部に詳しい人たちであって、裁判官は裁判官、検察官は検察官、弁護士は弁護士です。 そのプロとしての誇りを持っている目からみると、国会で議論されている法律的な議論はレベルが低くて、嫌になってしまいます。それは、ある意味で仕方がないと思います。法律を勉強していくと法律にはこういう常識があるとわかると思うのですが、政治家になる人で一番多いのは政治家秘書出身の人たちです。彼らは、非常にきめ細かい選挙をしますし、決して偉ぶらないですし、政治家の選挙向きではありますが、では何か専門知識や政策があるかというとないのです。 ですから、法律を学んで良くも悪くも現実の法律について問題意識を持っている人、法律案が上がってきたときに、それを法律としてみてきちんと議論ができる人、政界にはそういう人材がものすごく不足しています。地方議会はおそらくもっとひどいと思います。専門家的な議論がないと、官僚主導になってしまいます。やはり、「この法律はいいが、以前○○法というのがあって廃止されたけれども、またこれを作ると法体系上おかしいじゃないか」とか、「○○法が出来て、○○法も出来たが、その間の調整はどうするのか」とか、そういうことを考える人が必要です。私は皆さんに政治家になることを勧めに来たわけではないのですが、やはり法曹界の方々がもっと実際の立法の場、国会で活躍して頂くことはとても重要だと思います。
<最後に> でも、皆さんは、東北大学に来て、素晴らしい先生方の授業を受けることができます。そういう機会に恵まれて、それはすごく恵まれていることだと感謝して、そして、やはりしっかりやらなければいけないと思えるかどうかが勝負だと思います。法曹の仕事というのは、いろんなことに興味を持ち、弁護士になったらこれをやろうとか、裁判官になったらこういう風にしようとか、検察官になったらこうしようとか、そういう夢や希望を持つとこんなにいい仕事はありません。それは私の経験から本当にそう思います。 ですから、今のところ、皆さんの人生はこの東北大学ロースクールで勉強していますから何の間違いもありません。しかし、その先の人生は皆様次第です。ですから、夢と希望を勝ち取ってほしいという思いを込めて本日私はここに来ましたので、是非頑張って下さい。ご静聴ありがとうございました。(拍手)
◆編集後記 今回は、牧原秀樹先生によるご講演「これからの法曹人のあり方 ―今までの固定的なあり方から、多様な場で活躍する時代へ―」の概要をお届けしました。法曹の仕事の多様性、可能性を感じさせるご講演であり、教員の立場からも勇気づけられる内容でした。 法科大学院の在学生、修了生の皆様は、法科大学院の授業の予習・復習、新司法試験の試験勉強、司法修習等で大変忙しい時間をお過ごしかと思いますが、時には時間を見つけて、いろいろな方のお話を聞き、意見を聞いて、皆さんご自身の将来のことを考えていただければと思います。 ご講演概要の掲載にご快諾いただいた牧原秀樹先生に心から御礼申し上げます。 (杉江記)
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