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東北大学法科大学院メールマガジン第47号 08/21/2009 ◇平成22(2010)年度募集要項(再掲)
「平成22(2010)年度東北大学法科大学院学生募集要項」がホームページに掲載されております。東北大学法科大学院の修了者には、「法務博士(専門職)」の学位が授与され、新司法試験の受験資格が付与されます。入学を検討されている方は、ぜひご覧ください。
出願書類の用紙の請求は、入試関係資料請求ページ(テレメールWeb)から行うことができます。請求方法の詳細は、以下のアドレスにアクセスした後、ページ内の指示に従ってください。 ◇第4回連続講演会(再掲)
東北大学法科大学院では、現在、修了生・在学生・教職員を対象に連続講演会を開催しています。
第4回 8月30日(日) 10時〜12時
東北大学法科大学院では、現在、修了生・在学生・教職員を対象に連続講演会を開催しています。 企業法務弁護士の実際 藤田 浩 弁護士
○はじめに 私が所属している森・濱田松本法律事務所は、日本では所属弁護士数が多い事務所の1つであると思います。私自身は、大規模な企業法務の事務所が弁護士として仕事をするのに一番いいと確信をもっているわけではないですし、宣伝するつもりもありません。旧司法試験に合格した当時、先輩のやっている一人事務所で見習いのようなことをしたことがありますが、一人事務所のよさ、顧客との個人的な結び付き、信頼関係というのは貴重なものだなと思いました。そういう意味では、企業法務事務所のいい所だけを必ずしも紹介するわけではないことをご了承下さい。
○企業法務の担い手−大型法律事務所はどこに向かっているのか 表題の大型法律事務所はどこに向かっているのかということですが、私なりの答えは、誰にもわからない、大型法律事務所自身が5年先、10年先の将来像をきちんと描けてやっているということはまずありません。 インターネットでみますと、日本最大の法律事務所のリストのようなものをみることができますが、そのうちいくつかは元々渉外事務所といわれていたところで、ざっくりいいますと外国の顧客のために日本法のサービスを提供していた事務所が大きくなったところです。また、別のいくつかの大型法律事務所は外国の法律事務所が経営母体となっているところです。森・濱田松本法律事務所や、その他いくつかの大型法律事務所は、元々国内の企業法務事務所が総合事務所として大きくなったところです。 一口に大型法律事務所といっても、近年の合併・統合の結果、弁護士数が増えて、100人・200人となっているところもありますし、外国の法律事務所の事実上の出先となっている事務所もあり、元々バックグランドがそれぞれ異なっています。そのバックグラウンドは現状にも多少影響があります。例えば森・濱田松本法律事務所は、倒産処理案件や訴訟案件が比較的多いのですが、これは、経営戦略でもありますが、むしろ元々のバックグラウンドの影響も大きいのです。私が弁護士になった1990年当時は、森綜合法律事務所で弁護士数が20名程度だったのですが、20年で10倍強になりました。そのように、日本の大型事務所の歴史はまだ浅いということを念頭に置いて頂けるとよいと思います。大型事務所だから盤石ということはなく、どこまで大きくなっていけるのか、本当に大きくなるのがよいのかと思うこともありますし、仕事のニーズとか顧客の要望等に応えているうちに、必然的に大きくなってしまったという感じです。 欧米の法律事務所の状況、特に米国の状況ですが、世界で最も大きい事務所は弁護士3000人規模となっております。日本の最大の法律事務所と比べて10倍以上の弁護士数を持っており、また、弁護士数1000人以上の事務所は30以上あります。世界的にみても、事業規模を拡大するため、合併、統合が進んで、法律事務所は大型化する傾向にあります。 ニューヨーク州の一流の法律事務所と言われているところは、15年くらい前には、私の感覚では、弁護士300〜400人程度でした。そのうち、本当に超一流と言われている法律事務所はそこからさほど大型化しておらず、400〜500人の規模のままとなっています。数千人規模の法律事務所が必ずしも超一流ではないというところがあります。大きいことは一流であるとはいえないとはどういうことかというと、合併や統合により人数が増えると経営基盤が拡大し、広告や投資がしやすくなります。しかし、超一流の法律事務所、良質な顧客がすでにいる法律事務所では、元々経営効率が高いため、大きくなることは必ずしもプラスになるとは限らないのです。 アメリカの法律事務所が本当に大きくなったのはここ10〜15年のことです。では、現在200〜400人規模の日本の大型法律事務所も今後10年くらいの間に欧米のように数千人規模になれるのか、なるべきなのかとの問いについてですが、個人的にはならないと思っております。それは、現在、特にアメリカと英国の事務所が拡大しておりますが、やはり英語圏であることが大きな理由として考えられます。弁護士業というのは文書の仕事ですから、日本の事務所は基本的には日本語圏の範囲内での仕事+アルファであると考えられるからです。もちろん日本の経済規模、ビジネスの規模も世界の中でも大きく、弁護士の業務の需要も拡大していくと考えられますが、そうかといって大型事務所の規模を倍にしても、経営が成り立つ程の需要があるかというとわかりません。 昨年から世界的な金融危機がありましたが、米国の一流といわれている法律事務所でも、採用したロースクールの学生を待機させたり、勤務弁護士をリストラしたり、パートナー弁護士でさえも一定の業績をあげないとリストラするといった状況となっているとききます。米国では、昨年までの5年間くらいは弁護士事務所の「バブル期」でありどんどん拡大傾向にありましたが、ここにきて冷え込んで揺り戻しがあったと考えられます。日本では、そこまで冷え込みはないと思います。 企業法務の大型法律事務所に勤める意味は何かということですが、まず、専門性の高い仕事ができる、経験ができるということがあります。もう1つの側面としては、大型の事務所というのは、どうしてもビジネスであるということです。一人事務所もそれ自体もちろんビジネスなのですが、ビジネスは大型化すればするほど、ビジネスのために使わないといけない時間とかエネルギーとか知恵とか戦略等が、加速度的に増加するものです。大型事務所に所属してパートナーとして経営に携わるとなるとビジネスの経営者になるという側面があり、そのための責任やリスクもあります。 インターネットでみられた方もいるかもしれませんが、大手の事務所のこの弁護士がいくら稼いだというような情報があるかもしれません。しかし、それは高額の給料をとっているというイメージとして捉えると実態とは異なります。そのようなところに載っている方は、経営者として稼いでいる、ビジネスを経営して利益を上げているということなのです。その分、経営戦略を考えないといけないし、バブル崩壊や金融危機も経営に影響してきます。そういったことをやりたくないという方は大型法律事務所でずっとやっていくことに向いていないということになります。 ちなみにアメリカの3000人規模の事務所の年間の売り上げは3000億円に達するほどのビジネスで、ゆうに上場企業並みのビジネス規模となっております。効率よく売り上げている事務所は、弁護士1人当たり年間でおおよそ1億円くらい売り上げているということになります。アメリカの事務所はトップの100〜200の事務所はそういった経営情報を公開しております。ここ15年くらいは利益がどんどん増大していましたが、昨年はじめて落ち込んだといわれております。アメリカの大型の事務所にはCEOがいます。かつては弁護士が事務所の経営をやっていましたが、3000億というようなビジネスを経営する能力は弁護士の能力と全く別のものです。今では、米国の大型事務所のCEOは弁護士ですらない方が経営者として連れてこられて経営するといったことが多いのです。 では、個人レベルで考えたときに、弁護士というのはビジネスだけなのかという問題があります。20年近く前ですと、司法研修所にいくと、裁判官教官からは「渉外事務所にいくなんて、ビジネスのために司法試験を通ったのか」などと言われていましたが、最近は裁判所でも任官希望者が増えてきてそういう話はされなくなったかもしれません。弁護士の仕事というのは、企業法務を含めて、お金だけのためではない、プロフェッション(職能)であります。私どもの事務所では、ある種の業種の依頼は受けないということをやっております。また、個人レベルでも、この分野の仕事はあえてしない、という弁護士もいます。そのあたりは、弁護士一人一人が自分のプロフェッションをどう考えるのかということかもしれません。ビジネスだけに突っ込んでいってしまうと、過去の例をみるとだいたいうまくいっていません。筋の悪い仕事をすることになって、何か問題が起こってしまったという弁護士もたくさんおります。
○大型法律事務所の業務範囲 まず、大型化しやすい案件というものはどういうものがあるかというと、例えば、M&A、企業買収案件があります。事業の規模が大きくなっていけば、デューデリジェンス(買収監査)において監査対象となる情報の量がどんどん増大していくので、弁護士の業務もボリュームが大きくなります。また、これは国際化の点にもつながりますが、日本の企業も親会社1社だけで経営している上場企業は極めて例外的で、子会社、合弁会社、関連会社が国内にもたくさんありますし、また、海外にもあるのがむしろ普通です。海外のオペレーションの方が大きいといったケースもあります。 それから、訴訟も大型のものが増えています。これは複雑化のところにも絡みますが、大型の取引が増えていけば、それに関する紛争もやはり大型化します。また、大型倒産処理の中でも弁護士の役割が非常に大きくなってきています。倒産処理として、例えば、M&A的な手法を用いた倒産処理、事業の価値をなるべく毀損させずに新スポンサーを株主として迎え入れるとか、事業を譲り受ける企業を連れてきて事業を移管するという案件もあり、裁判所が選任した管財人だけでなく、大型の企業法務事務所が関与して、そういったダイナミックな処理を実現するケースが増えてきています。 次に、複雑化ですが、特に取引の複雑化、ここ10年くらい企業取引が極めて複雑になってきています。理由の1つとして、日本の法令に基づく規制自体が非常に複雑化、煩雑化しております。会社法も変わりましたし、金商法や独禁法等も変わり、企業やビジネスに適用される規制がとにかく複雑化しています。これは、バブル崩壊以降の不祥事や紛争への対応、規制を国際標準に合わせるという意味合いがあったと思いますが、結果としては非常に複雑なものになっています。 それから、会計処理、会計上の見え方、税負担、税効果がどうなるかに基づいて、これまでは株式譲渡や事業譲渡といった形でシンプルにやっていた取引が、仕組みを複雑化して行われている。SPC(特別目的会社)やファンドを介して行われたりしています。また、会計原則の変更とか税法の改正もここ数年で進んでいます。ファイナンスの手法、取引の原資となるお金の調達法もどんどん複雑化してきています。これは、会社法の改正で複雑なことが疑義なく日本法の下でもできるようになったことも理由の1つですが、いろいろな形での資金の出し手が増えてきたこと、すなわち、単一の銀行が貸すということではなく、ファンドや機関投資家が優先株を引き受けるとか、複雑になってきています。 ファンドというのは、同じビジネス、取引をするにも、お金がいついくら回収できるかということを最大限効率化しようとしますし、ある意味それがファンドを運用している者の善管注意義務であったりします。ファンドには複雑な取引を面倒だと思うような感覚はなく、日本法上適法であれば、その範囲内で最大限のリターンが得られるようにストラクチャーを考えますので、それに伴って取引もそして弁護士の仕事も複雑化しています。 紛争処理、典型的には訴訟ですが、複雑化しています。理由としては、ここ数年M&Aがあった、ファイナンス、ファンドの取引もあった、あるいは税効果を狙った取引もあった、それがある程度避けられないことでありますが、不幸にも紛争になるものがあります。例えば、M&Aの結果、少数株主として追い出されてしまった株主からの訴訟も起こったりしますし、あるいは金融商品を買った投資家から情報開示が不十分であったという訴訟、それに税務訴訟もどんどん増えている印象です。 最後に、国際化についてです。バブル崩壊以降、日本の企業は不況に遭遇することが続いていました。では、不況になったら海外から撤退するかということですが、かつてはそういうことがありました。しかし、現在では、不況下でも企業の対応は真逆で、もっとコストを下げるために国内の生産拠点を中国やベトナムに移し、国内産業の空洞化が懸念されるといったことがあります。そのような海外投資を法律事務所がお手伝いするということがあります。また、少し特殊な問題として法令の域外適用の問題もあります。日本の企業同士が合併するとしても、アメリカの株主が一定割合以上いる場合には、アメリカの株主や投資家の保護の観点から、アメリカの証券法上の規制がかけられる、開示義務を課されるといったことがあります。アメリカのこうした法律を知らないで合併すると、アメリカ法に抵触しているといった事態があり得るという時代になっています。 こういった事情に対応するために法律事務所が大きくなっていかざるを得ない、このような中で一人の弁護士がすべての分野において精通するということはもはや不可能になってきています。ですから、事務所によって程度の差はありますし、個人個人によって考え方の違いはありますが、傾向としては専門化していかなければなりません。このような時代に一人で弁護士事務所をやるとなると、かつては会社法(商法)、倒産、知財、相続、親族、通常の民事事件等様々な案件を調べながらでも1つ1つきちんと対応していけばやっていけるという感じだったのですが、ここまで規制も世の中も複雑化すると、より注意してやらなければいけないという時代がきつつあると思っております。私も、いずれは一人事務所をやってみたいと思ったりすることもありますが、果たして本当にできるのか。会社法上の論点だけをみても、非常に解釈が複雑化しています。昔は、商法学者の基本書と判例を押さえればよかったのに、最近では、立法担当者の発言等も含めて全部網羅しなければならない、私はまだ40過ぎなのでできるかなという感じもしますが、60過ぎになってからできるかどうかと考えるとなかなか厳しいかなと思ったりします。 大型法律事務所における具体的な業務分野について少しお話します。まずコーポレート、会社法関係の業務ですが、例えば、M&Aや買収防衛がありますし、ベンチャー投資、PE(未公開株式)、株主総会指導、コンプライアンスなどの業務があります。次にファイナンスですが、これもいろいろありまして、キャピタルマーケッツ(資本市場)に関する案件や、特殊なファイナンスの仕組みを利用したストラクチャード・ファイナス、証券化取引、銀行法に基づくアドバイス等銀行業務全般を扱うバンキング、資産運用とか投資信託などが対象のアセットマネジメント、J-REIT(日本版不動産投資信託)に関する業務、金融業者等の行為規制に関するレギュレーションの仕事があります。 さらには、先ほどお話しました訴訟や紛争処理、事業再生・倒産処理、知的財産やITに関する業務もありますし、課徴金制度等の改正があり現在ホットな分野である独占禁止法に関する業務、労働法、税法、不動産に関する業務があります。事務所によって異なりますが、税法の専門家がいる事務所もあります。刑事事件ですが贈収賄やインサイダー等の重大事件を手掛けている専門家がいるところもあります。森・濱田松本法律事務所は中国にオフィスがありますが、事務所によって中国、インド等アジアに力を入れているところもあります。また、プロボノということで、公益活動、国選弁護士、当番弁護士も業務の一部となっています。
○大型事務所に所属する弁護士の業務 そうでなければ、別の事務所に移ったり、企業内弁護士に転身したり、あるいは本当のビジネスマンとして、たとえば外資系の証券会社やファンドに就職する方もいます。また、事務所によってはパートナーとアソシエートとの間の中間的なものとして、アメリカでは昔からありますが、専門的な知識や経験の豊富な人であればカウンセルとして処遇をするということもあります。それから、弁護士業以外の業務としては、企業の社外役員になる方、政府の諮問委員会の委員になる方、私のようにロースクールで教える機会を頂くとか、人によっては政治家になってしまう方もいます。いろいろな形で弁護士の仕事も広がりが出てきています。 最後に、大型事務所ではどのような貢献が求められるのか、評価されるかです。これは事務所によって全然違いますし、私が一言で申し上げられることではありませんが、やはり、一つは業務遂行能力、これはある程度みられざるを得ません。また、これからは、どんな業務でもやるというのではなく、専門性からの貢献、この分野については非常に興味もあって強みがあると、目に見える貢献ということで評価されやすくなると思います。それから、パートナーになる年次でのことですが、営業面もあります。それは業務遂行能力や専門性の結果であったり、あるいは運不運の結果でもあったりしますが、優良顧客を獲得したとか、事務所の大事な顧客に非常に信頼されているとか、そういったことが評価されたりします。そのあたりはビジネスであるという側面がある以上、仕方がないところがありますし、それが面倒だという人は大型法律事務所に行くことはやめた方がいいかもしれません。 以上は、あくまで私の私見ですが、なにかのご参考になれば幸いです。時間もかなりたってしまいましたので、これで私の話は終わります。何か質問がありましたら、ご遠慮なくお願いします。
◆編集後記 今回は、藤田浩先生によるご講演「企業法務弁護士の実際」の概要をお届けしました。講演概要の掲載にご快諾いただいた藤田先生に心から御礼申し上げます。 平成22(2010)年度東北大学法科大学院学生募集要項が、ホームページに掲載されております。出願書類の資料請求は、テレメールWebから行ってください。(請求方法の詳細は移動後のページ内の指示に従ってください。)
(募集要項) (杉江記)
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